EDGE Book Sensor~ 明日の自分を遠望する3冊
書籍という名の"望遠鏡"を遊ぶ
新年度のスタートを目前に控えた、この時季。仕事は多忙を極めるが、新たな一年に向けて大きく踏み出す土台づくりにもエネルギーを割く。大人たるもの、こうしたバランス感覚は大切にしたい。そこで今回は「明日の自分を遠望する3冊」を紹介したい。
ブログやポッドキャスト、wiki、twitterといった"ソーシャル・メディア"の数々は、どのような変化をもたらしたのか。『ツイッターノミクス』はウォルマートやデル・コンピュータなど、さまざまな企業の事例をもとに、ソーシャル・メディアの原理原則をひもとく。
この本の冒頭には「ウッフィー、どお?」という、謎のセリフが登場する。この「ウッフィー」は、SF小説『マジック・キングダムで落ちぶれて』(著・コリイ・ドクトロウ)に登場する仮想通貨で、他人から感謝されたり、尊敬されると増えるが、不誠実だとみなされると減る。
オンラインの世界に誕生した、従来型の市場経済とは異なる経済システム。「直接の支払いを前提とせずに製品やサービスが提供されるギフト経済」を象徴するのが、この「ウィッフィー」だと著者は解説する。金銭の場合は使うと減るが、ウッフィーは他人に与えるほど増殖する。"提供"によって、つながりが生まれ、信頼関係が深まる。その結果、リアルの世界での優位性――よりよい仕事やより多くの報酬も手に入るという。
ネットとリアルの融合は、新たなチャンスや可能性を拓く。ネットでの失態が現実の生活に悪影響を及ぼすリスクも高める。著者自身の経験も踏まえながら、語られるノウハウの数々はマーケティングや広報担当者に限らず、個人でブログやSNSをやる際の危機管理マニュアルにもなりそうだ。
『未来への周遊券』。ノンフィクション作家・最相葉月と、小説家・瀬名秀明による往復書簡集。テーマは「科学」。登場する話題は星新一から気象調査、ドラえもんの映画、家庭医学と多岐にわたる。「明日生きることをまず考える、その積み重ねが未来をつくる」(最相)、「人は死んでも思いは残って未来をつくる」(瀬名)といったフレーズの重なり、その向こうに未来の姿が浮かび上がる。科学に関する予備知識がなくとも存分に愉しめる一冊だ。
『声の網』。"ショート・ショートの神様"と呼ばれた作家、星新一によるSF連作短編集。コンピュータ網が張り巡らされ、あらゆる疑問や問題を電話の向こうの「声」が解決してくれる未来。だが、だが、電話にはとんでもない秘密が隠されていて――。「情報の流れが激しい水圧をもって、個人にそそがれる」ようになると、人々は「情報の送り手の立場に身を置く」と本書は説く。40年以上前に書かれたものとは思えない、現実との符合ドキリとさせられる一冊でもある。
未来は予測できない。だが、思考停止に陥ることなく、想像力を働かせ、思考し続ける。それこそが、未来の端緒をつかみ、己が欲する大人像を手に入れることにつながるのだ。
今週のEDGEな3冊
『ツイッターノミクス』
著・タラ・ハント 文藝春秋 /1650円
『未来への周遊券』
著・最相葉月、瀬名秀明 ミシマ社 /1575円






