EDGE Book Sensor~未知なる己を手に入れる3冊
未知の領域に足を踏み入れるという快楽
身の程をわきまえる。それは日本人の美徳であり、大人の条件とされてきた。だが一方で、己の可能性を最大限に大きく見据え、目の前の一歩を踏み出す。そんな好奇心こそが、オトコの器を大きく育てるのも、また事実。そこで、今回は「未知なる己を手に入れる3冊」を紹介したい。40歳になった記念に「今までやっていないことに挑戦しよう」と、「一月一回一人キャンプ」を決意した、芥川賞作家・絲山秋子。『絲的サバイバル』は、その20回の"おひとり様キャンプ"がつづられたエッセイ集だ。
だが、そこにはアウトドア好き特有の"テンションの高さ"はまったくない。女一人、愛車クーペ・フィアットにテントや薪などアウトドア用品一式を放り込み、キャンプ地に赴く。そして係員に「死体を埋めに来たか死にに来たのか」と怪しまれつつも、上機嫌でテントを設営。淡々と夕食をつくり、ワインを傾け、焚き火を囲むのだ。
さらに、キャンプ場以外の場所でも野宿に挑む。ある時は氷上でワカサギを釣り、またある時は講談社の敷地内(!)で野宿に挑む。著者曰く「一人キャンプは引越と少しだけ似ている」という。飲み食いする場所と眠る空間があれば、快適に過ごせる。そんな当たり前のようでいて、見過ごしがちなことを、この本は教えてくれる。
『自転車をめぐる冒険』。最新の自転車事情にまつわるエッセイ&イラスト集。本格的自転車はサドルが堅い。ゆえに「股間の痛み」は避けて通れない上、車道を走るのは「緊張の連続」にも関わらず、なぜ自転車にハマるのか。この本は、ある種の人々にとって「宗教的」になりつつある、自転車の正体をさまざまな角度からひもといていく。ライフスタイルの選択肢を広げてくれそうな一冊だ。
『かぶく者』。週刊「モーニング」で連載中の歌舞伎マンガ。主人公はストリート歌舞伎で芸を磨いた役者・市坂新九郎。「伝統も格式も関係ない」と己の道を突き進む主人公だが、伝統芸の凄みを目の当たりにし――。この作品には役者たちの葛藤と苦悩、舞台上のぶつかりあいをつぶさに描かれている。そこにあるのは、息をつく間も与えない緊張感と、壮絶な色気だ。何気ない所作に秘められた歴史の重みに、ハッとさせられる一冊でもある。
関心がなかったジャンルにも、あえて触れてみる。それは余裕のある大人だからこそできる、心の遊びだ。「好きだから」「嫌いだから」という思い込みの呪縛から己を解き放てば、その先には無限の自由が広がっている。
今週のEDGEな3冊
『絲的サバイバル』
著・絲山秋子 講談社/1470円
『自転車をめぐる冒険』
著・疋田智・ドロンジョーヌ恩田 東京書籍/1365円







