EDGE Book Sensor~芸術を読書する秋の3冊~Art編
感性に磨きをかける格好のツール。それがアートだ
「芸術の秋」を愉しむなら、やはり外せないのがアート。大人たるもの「アートなんて難しそうだし…」と尻込みしている場合ではない。自分なりのアートとのつきあい方を探る。それは感性に磨きをかけることにもつながる。そこで今回は特別な知識がなくても、アートをより深く愉しめる、そんな3冊を紹介したい。名画の新たな見方を教えてくれるのは『怖い絵』。本書ではゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」、ムンクの「思春期」といった名画20点を取り上げているが、絵画そのものではなく、画家やモデルの人生や社会背景といった名画の裏側に焦点を当てている。
例えば、ドガの「エトワール、または舞台の踊り子」。スポットライトを浴びながら踊る、バレリーナの姿を描いたこの絵は、ホラーファンタジー漫画の名作『悪魔の花嫁』(あしべゆうほ)にもモチーフとして登場する有名な絵画だ。ドガの作品の半数以上がバレエを扱ったものだが、当時、パリではバレエ人気が衰えており、オペラ座は娼館と化していたという。
この絵をよく見ると、左後方に黒の夜会服を着た男の姿がある。この男こそが、中央で踊るプリマのパトロンなのだと著者は指摘する。 「こうしたことを踏まえて見直すと、エトワールの首に巻かれたリボンの色もまた、紳士の服と同じ鮮やかな黒で描かれているのが目に止まる。まるで金で縛られていることの象徴のように…」と。
美しいのに、どこか不安な気持ちにさせられる、残酷なのに惹きつけられずにいられない、そんな絵画にまつわる、さまざまなエピソードとの出会い。それは、絵からその背景を想像し、知的な冒険を愉しむという新たな愉しみを教えてくれる。
『現代アートナナメ読み』。現代アートを読み解く上で必要な最小限のツボを紹介した現代アート入門書。政治や観光、犯罪、スポーツといった現代社会と現代アートは意外な接点で結びついていることを示す。おすすめの美術館のほか、身近にアートに触れられる書店やカフェ、ホテル、バーといったスポットも紹介されており、現代アートの鑑賞ガイドとしても役に立ちそう。「現代アートは難しい」という目隠しを外してくれる一冊でもある。
『あそぶ、つくる、くらす』。著者は「40歳になった1984年に、50歳になったらデザイナーを辞めて何か違うことをしたいと考えた」という元デザイナーの彫刻家。本書では子供たちとのワークショップや作品づくりなど、その仕事と暮らしぶりを作品とともに紹介する。アートだからと構えることなく、夢中になって作品を作る、子供たちの真剣な表情が印象深い。「大切なことはアートを言葉や知識によって理解するのではなく、五感を総動員して楽しむことだ」という、アートを楽しむ秘訣が、そこにある。
アートという単語にはどこか近寄りがたい、特別なものという雰囲気が漂う。しかし、名画と呼ばれる作品には、時代時代におけるワンシーンから生まれてきたものも多い。つま先立ちでウンチクを語るのではなく、本来身近にあったはずのアートに先入観を排除して近づいてみる。それこそが、大人ならではのアートの愉しみを知る、何よりの策である。
今週のEDGEな3冊
『怖い絵』
著・中野京子 朝日出版社/1890円
『現代アートナナメ読み』
著・暮沢剛巳 東京書籍/1785円



