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感動の鍵を握る、あるセリフ

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感動の鍵を握る、あるセリフ

前田 知洋  Tomohiro Maeda
1988年米国アカデミー・オブ・マジカル・アーツのオーディションに合格。ハリウッドのマジック・キャッスルなどに出演。帰国後、日本初のクロースアップ・マジシャンとして活躍し、マジックブームを牽引する。ラスベガスやハリウッドをはじめイギリス、スペイン、ドイツなど海外にも招聘され、「マジック・オブ・ザ・イヤー」ほか数々の賞を受賞。2005年にはチャールズ皇太子もメンバーである英国マジック・サークルの100周年記念祭特別ゲストに。同会の最高位であるゴールドスターメンバーを授与される。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)など。

●公式サイト:Tomohiro MAEDA Magical Town
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/tomo-maeda/
「じゃあそろそろ、一つやってみましょうか」

こちらの緊張がほぐれたのを見透かしたかのように、前田さんは胸元からトランプを取り出した。前田さんが披露してくれたのは、選んだカードを当てるという定番のマジック。そう聞くと、ありきたりなカードマジックのようにも聞こえるが、取材陣は思いもかけない技の数々に驚嘆することになる。

「マジシャンのトランプを触ったことありますか」

前田さんに封を切ったばかりの新品のトランプを渡され、タネも仕掛けもないことを確認する。そして、52枚の中から、取材陣が1枚のカードを選択。前田さん以外の全員が「クラブの7」だと把握したところで、そのまま、前田さんには見せずにカードを束の中に戻す。シャッフル後に、前田さんが「正解」と思われるカードを取り出すというマジックだ。

「これですね?」と前田さんが取り出したのはダイヤのA。いや、さっき引いたカードとは違う……。

「えっ?これじゃない。ごめんなさい」と前田さんは恐縮した様子で、ダイヤのAをビリビリと破いてしまう。固唾を飲んで見守る取材陣。破ったカードはテーブルの上に伏せられている。

次の瞬間、前田さんがなぜか、さっき破ったはずのダイヤのAを持っている。しかも、破られた痕跡は跡形もない。だが、破れたカードの破片はそのままテーブルの上に。裏返すと、"破られた、クラブの7"に変化している。
そして、カードの破片を取材陣の手の中に入れ、おまじないをかけると、カードは元通り、新品同様の「クラブの7」に。

何が起きているのかまったくわからない。さらに、マジック終了後、冒頭の何気ないセリフが、じつはマジックを成功させる鍵を握っていたことを教えられるという驚きが待っていた。

「じつは最初にお客さんにトランプを渡すのは、マジシャンがごく自然にお客さんに近づくための口実なんです。黒づくめの格好をした、よく知らない人がヌーッと近づいてきたら、誰しも不安に思いますよね。でも、トランプを渡されると、お客さんの注意はカードに向くため、マジシャンは警戒心を抱かれずに、距離を詰めることができるんです」

何気ないセリフや仕草の一つ一つには、すべて意味があるのだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami

ネガティブな反応こそ糧になる

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ネガティブな反応こそ糧になる

前田 知洋
前田 知洋  Tomohiro Maeda
1988年米国アカデミー・オブ・マジカル・アーツのオーディションに合格。ハリウッドのマジック・キャッスルなどに出演。帰国後、日本初のクロースアップ・マジシャンとして活躍し、マジックブームを牽引する。ラスベガスやハリウッドをはじめイギリス、スペイン、ドイツなど海外にも招聘され、「マジック・オブ・ザ・イヤー」ほか数々の賞を受賞。2005年にはチャールズ皇太子もメンバーである英国マジック・サークルの100周年記念祭特別ゲストに。同会の最高位であるゴールドスターメンバーを授与される。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)など。

●公式サイト:Tomohiro MAEDA Magical Town
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/tomo-maeda/
「マジックに限らず、普段から丁寧な言葉を使うように心がけています」という前田さん。 「大切な人にマジックを見せるときは、新品のカードを使います」、「好きなカードを1枚選んでください」といったマジシャンのセリフには、見る者の気分を盛り上げ、夢中にさせる"仕掛け"が施されている。

「とはいえ、思ったようにマジックが受けなかったり、お客さんの心がつかみきれないといった失敗は僕自身、何度も経験しています。大切なのは100%の成功を目指すことではなく、距離感をはかり間違えたときに相手から発せられる警告のサインに気づくことです。失敗すれば、『これ以上踏み込んではいけない』という基準が見つかり、正しい距離感をつかむヒントが手に入る。そう考えれば、多少の失敗など恐れることはありませんよね」

不本意なリアクションが返ってくると意気消沈し、腹立たしい気持ちにもなる。だが、ネガティブなリアクションの中には、一皮むけるための材料が詰まっているのだ。

「例えば、相手の態度が不機嫌そうなときなどは『何が気に入らないのかな』と想像を巡らせてみると面白くなりますよ。原因を突き止め、関係を改善できたら最高ですし、そこまで結果を出せなくてもストレスは軽減できる。不快感にとらわれ、考えることをやめてしまうのが一番つまらない。どんな相手でも、あれこれ試行錯誤しているうちに、互いに快適な距離感を見つけることができるものです」

不快感にとらわれないタフさ。それは大人の男であれば、身につけておくべきものだと言えるだろう。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami

他人のココロに入り込む真髄

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他人のココロに入り込む真髄

前田 知洋
前田 知洋  Tomohiro Maeda
1988年米国アカデミー・オブ・マジカル・アーツのオーディションに合格。ハリウッドのマジック・キャッスルなどに出演。帰国後、日本初のクロースアップ・マジシャンとして活躍し、マジックブームを牽引する。ラスベガスやハリウッドをはじめイギリス、スペイン、ドイツなど海外にも招聘され、「マジック・オブ・ザ・イヤー」ほか数々の賞を受賞。2005年にはチャールズ皇太子もメンバーである英国マジック・サークルの100周年記念祭特別ゲストに。同会の最高位であるゴールドスターメンバーを授与される。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)など。

●公式サイト:Tomohiro MAEDA Magical Town
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/tomo-maeda/
客の眼前、数十センチの距離で、常識では"ありえない"はずのことが次々に起きる――。

日本におけるクロースアップ・マジックの第一人者である前田知洋さんは、その衝撃的な技術で、近年のマジックブームをもたらした立役者でもある。マジックを題材としたスペシャル番組のみならず、『ザ・世界仰天ニュース』(日本テレビ)や『トップランナー』(NHK総合)など、さまざまなTV番組で出演者やTVの前の視聴者を驚愕させた。他人のココロに入り込む達人は、その真髄をこう語る。

「マジックでトリック以上に大切なのはお客さんとの"距離感"です。物理的な距離も大切ですが、それ以上に大切なのが観客との心の距離。物理的な距離が遠ければトリックは見破られにくいかもしれませんが、そんなマジックに感動はありません。物理的に距離を近づけることは、心の距離を近づけることにもなる。ただし、ずかずかと人との距離を縮めようとすれば、かえって警戒されてしまう。他人に警戒心を抱かせないよう、心と体の距離を詰める。そのための準備はステージに立つ前から始まっているんです」

ダークカラーのスーツを身につけ、ネクタイをほんの少しゆるめることで信頼感と親しみやすさを演出する。背筋をスッと伸ばしながらも、肩の力は抜く。そんな姿勢はリラックスした印象を相手に与える。さらに、丁寧な言葉と物腰の柔らかさで心のバリアを解除する。

「それと同時に、ある一定以上には相手の距離を縮めないよう心がけています。近づいた上で、丁寧な言葉遣いで相手との距離を保つ。"車間距離"をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。相手との距離が近すぎると、"事故"を起こすリスクが高くなる。ある程度の"車間距離"は、快適な人間関係を築くために必要なものなんです」

マジシャンが巧みに操るのはカードやコインだけではない。その場に流れる空気そのものをコントロールし、"魔法"を繰り出すのだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami

EDGE Book Sensor~慈雨の恵みに感謝したくなる3冊

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自ら「上機嫌」をつくり出す。それが大人だ。

EDGE Book Sensor
梅雨時にご機嫌で過ごすのは案外難しい。湿気のこもった通勤電車、濡れた傘はイヤがおうにも憂鬱な気分をかきたてる。だが、その雨がもたらしてくれるものは思いのほか多いのだ。今回は「慈雨の恵みに感謝したくなる3冊」を紹介したい。

天気が悪い日だからこそ味わえる愉しみがある。そう教えてくれるのは『楽しい気象観察図鑑』。この本に登場するのは「雷雲の上で起きる謎の発光現象」や「霧に映る人影」、「気温が氷点下でも湖が凍らない理由」といった、不思議な気象現象の数々。写真集も顔負けのカラー写真が約200点も収録されており、ビジュアルブックとしても愉しめる。その美しさは思わず、ページをめくる手が止まるほどだ。

また、素晴らしいのはビジュアルだけではない。高校教諭であり、気象予報士でもある著者が科学的なアプローチでひもとく、気象現象の秘密。その解説はわかりやすく、専門知識がまったくなくても、存分に楽しめるはず。見慣れたはずの空の"違う顔"に出会える一冊だ。

『ムラセ係長、雨水で世直し!』。東京都・墨田区の現役職員にして、"ドクトル雨水"の異名をとる村瀬誠氏と、その仲間たちによる"世直し"の軌跡。
初めて手がけた雨水利用施設は新国技館。渋る日本相撲協会を口説き落とし、巨大な雨水タンクを設置した。その後も、台湾、韓国、バングラディシュなど、国内外に活動のフィールドを広げているという。"大風呂敷"を実現し続けてきた男のバイタリティに圧倒される。

『もやしもん』。言わずと知れた大人気マンガ。人気麹菌から納豆菌、風邪のウイルスまで、さまざまな"菌"を擬人化し、醸造や発酵のドラマをコミカルに描く。湿気があることで菌は育ち、その恩恵を享受していることを痛感する。読むほどに菌たちのキュートさがじわじわ効いてくる一冊だ。

視点をちょっと変えるだけで、目に映る世界はガラリと変わる。その視点が増えれば、人生を愉しむ幅はおのずと広がっていくはずだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami
写真・嘉川ニ奈 Photo/KAGAWA Nina

今週のEDGEな3冊

楽しい気象観察図鑑
『楽しい気象観察図鑑』
著・武田康男 草思社/1995円
ムラセ係長、雨水で世直し!
『ムラセ係長、雨水で世直し!』
著・秋山真芸実 岩波書店/2310円
もやしもん
『もやしもん』
著・石川 雅之 講談社イブニングKC/560円

EDGE Wave Sensor~暴風雨すら愉しめる傘

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その強さ、台風にも対抗可能である

傘
Original/SENZ Umbrellas
欧米で驚異的な売上げを記録した、過去に類を見ないシェイプのアンブレラ。そのOriginalは地球上での風力0~12換算で風力10(全強風)にも耐えうる。より小型・軽量サイズで折りたたみ式の「Mini」も60km/hという強風にも対応可能。どちらもカラーリングは、BLACK、RED、NAVYの3色。07年レッド・ドット・デザイン受賞、08年IDEA2008パーソナル・アクセサリー部門GOLD賞、同年GOOD DESIGN賞受賞。7140円
http://marcs.co.jp/
傘
http://www.youtube.com/watch?v=fQxaS0zmH4U&hl=ja
洋傘の歴史をたどると、約4000年ほど前に遡る。エジプトの壁画などにも描かれた傘は、そもそもは神の威光を示すアイテムであり、高僧や貴族の日よけなど、高貴さを表すシンボルでもあったという。とりわけヨーロッパでは、傘は高級品でありぜいたく品で、遺言書に傘を譲る継承者を記すほどだったという。

現在、当時ほど高価ではないものの、ヨーロッパでは「傘」というアイテムに一定のステータス感はつきまとう。最近ではそこに、「機能」という付加価値が加わったアイテムも登場している。それも使用シーンにおいての「タフさ」という付加価値が。

「SENZ」。傘という爆発的なヒット商品の生まれにくいプロダクトにおいて、発売9日間で、1万本を売り上げたという恐るべき傘であり、そのメーカーブランド名でもある。では、なぜこの妙な形の「SENZ」が爆発的なヒット商品となったのか。その理由はまさしく「タフさ」。風速100km/hという樹木が根こそぎ倒されるほどの強さの風のなかでも、この傘はしっかりとその原形をキープする。

フレームには軽量でしなりがあり、折れにくいグラスファイバーを採用。そして何より特徴的なのは、前後非対称のこの妙な形。空力を研究し尽くした結果、風上の方へと傘のヘッドが向く設計になっており、しかも前からの風を後ろに逃がすため、強風につきものの傘の裏返りとも無縁となっている。

しかもこのメーカーは、オランダのデルフト工科大学の学生3名によって立ち上げられたという。その原点は「人類は月まで到達し、それからさらなる進歩を遂げたのに、なぜ地球上の傘はまったく進歩しないのか」という思い。遙かなる宇宙と、日常の風景を連結させて、生まれたのがこの傘だというのだ。

キャッチコピーは"Enjoy the weather!"。宇宙と日常という遙かな距離から生まれた発想は、雨という逆境をも愉しむことができる形に昇華された。この傘は"不快"を"快"に変えるという、大人に必要な技術をも教えてくれる傘である。

文/三上真治 text/MIKAMI Shinji

EDGE Book Sensor~噴き出す汗を快楽に変える3冊

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汗腺をガッチリ開いて、本格的な夏に備える

ビールの科学物 見遊湯 僕たちのミシシッピー・リバー
日増しに蒸し暑くなり、何をするのも億劫になりがちな時期。だが、こんな時こそ、あえて汗をかく気持ちよさに目を向けたい。そこで今回は「噴き出す汗を快楽に変える3冊」を紹介したい。

噴き出す汗には、ビールがよく似合う。日本国内のビール消費量は世界7位。大瓶に換算すると1年間で約100億本にもなるという。そんな身近な存在であるビールを"科学的"にひもといているのが『ビールの科学』だ。この本では歴史的背景や文化、製造技術などさまざまな視点から、ビールの本質に迫る。

かつては職人の「勘と経験」に支えられていたビール造りは、科学技術の進歩により、より科学的にコントロールされて造られるようになったという。
この本には、ビールのおいしさを客観的に計測するために開発されたという「コクキレセンサー」や「喉ごしセンサー」などの最新技術も登場する。

第7章に登場する「ビールを美味しく飲むための『掟』」も興味深い。「注ぎ足しは厳禁」などおなじみのアドバイスから、「喉ごしを体感するために喉から胃袋のラインができるだけ直線となるよう心がけて」といった"姿勢"まで、徹底した解説ぶりに思わずニヤリとさせられる。

『物見遊湯』。イラストレーター・大田垣晴子による温泉体験ルポ。北は北海道・登別温泉から、南は鹿児島・妙見温泉まで全国300もの温泉施設を紹介する。有名どころが中心だが、意外にシビアな草津温泉の湯治スタイル、蒲田の温泉銭湯散策など、知る人ぞ知る温泉ネタが登場するのも、この本の魅力。パラパラめくっているだけで、"温泉熱"が上がる一冊だ。

『僕たちのミシシッピ・リバー』。さまざまな人生を四季の移り代わりに重ねて描く短編集「季節風」シリーズの夏編。転校する友達との夏休み最後の冒険を描いた表題作のほか、不登校児のためのフリースクールでボランティアを続ける45歳の教師、バンドへの夢が捨てられない24歳など、12の物語が収められている。ありふれた日常の中にある、小さなドラマ。過ぎゆく季節をリアルに体感できる一冊でもある。

毎年、夏は訪れるが、今年の夏は一度きり。そう意識することが、この夏を思う存分愉しむための第一歩なのだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami
写真・嘉川ニ奈 Photo/KAGAWA Nina

今週のEDGEな3冊

ビールの科学
『ビールの科学』
著・サッポロビール価値創造フロンティア研究所編
講談社/980円
物見遊湯
『物見遊湯』
著・大田垣晴子 新潮社/1,260円
僕たちのミシシッピ・リバー
『僕たちのミシシッピー・リバー』
著・重松清 文藝春秋/1500円

EDGE Wave Sensor~伝統が生んだ斬新なHot Spice!

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過去を継承し、新たな激辛の地平を切りひらく

雷 THE YUZUSUCO
雷(KAMINARI)/(有)かんずり(写真左)
新潟の唐辛子を塩で漬け、雪にさらし、糀などを加えて3年間寝かせた「かんずり」に"激辛"として知られるハバネロをミックス。仕上げの調味は醤油。激辛液体調味料としては珍しく醸造酢を使っていないため、素材の持ち味を存分に活かした味わいを愉しむことができる
http://www.kanzuri.com/

THE YUZUSUCO(ゆずすこ)/(株)高橋商店(写真右)
南国・宮崎県東米良産という良質のゆずと、とりわけ辛味の強い青唐辛子を厳選し、地場の酢で味を調えた。強烈な辛さとさわやかさは、ゆずこしょうそのものだが、さらにもう一段のさわやかさを醸造酢が加えている。ひとたび覚えると、利用者が何にでもかけ出すなど中毒性も高い
http://www.yuzusco.com/
何歳になろうと己の血を沸き立たせ、可能性を広げてくれる存在は、常に近くに置いておきたい。そんな姿勢を体現する強烈な"調味料"がある。

『雷(KAMINARI)』。そして『THE YUZUSCO(ゆずすこ)』。
雪国の新潟と南国・福岡というまったく季候の違う地域で生まれ、しかもその成り立ちや製品の特徴に奇妙な符合を見せる調味料だ。ちなみに言うまでもないが、これらは食事のアクセントとして使用できる"激辛"の液体。あのアントニオ猪木氏が日本に持ち込んだ、「タバスコ」と似たような位置づけのアイテムだ。

この2本がなぜ己の血を沸き立たせるのか。それは短絡的に「唐辛子に含まれる、カプサイシンが血行を良くする」というような理由からだけではない。このアイテム自体が、伝統の先にある発展形とも言えるものなのだ。
まず『雷(KAMINARRI)』だが、その原材料は「唐辛子、糀(こうじ)、柚子、塩」など。つまり、上杉謙信も愛したという新潟の「かんずり」がベースとなっている。そこに「世界一辛いと言われるハバネロをミックス」し、醤油味で仕上げたものだという。

そして『THE YUZUSCO(ゆずすこ)』。こちらの原材料は「醸造酢、唐辛子、ゆず皮、食塩」。つまりその原点は九州名産の「ゆずこしょう」。九州を代表する調理界のカリスマアイテムを「世界へ向けて発信したい」という一心で作られたものだという。ゆずこしょうとの差異は、醸造酢などを加えて液状化させ、ユーザビリティの向上につなげた形だ。

古来、唐辛子の用途は幅広く、悪魔祓いや病魔祓い、防寒などにも使われた。日本には500年前に伝来し、独自の進化を続けてきた。イタリアンの人気シェフが「タバスコよりもピザに合う」と「雷」を絶賛すれば、老舗の寿司店の主人は『YUZUSCO』を「当店の仕込みには欠かせない」と大量に取り寄せる。長い歴史があるからこそ、新たな進化を遂げたという好例である。

この2本は作り手からの挑戦状である。何にどう使うか。試されているのは使い手の発想力だ。『YUZUSCO』はピザ、パスタなどの定番の品の他に、「うどん、焼き鳥、チャーハン、揚げ物、モツ鍋」などへの使用を提案する。EDGE.netからはドライブの際、クルマに持ち込み、外食先で取り出すという、当然の提案をしておくが、さらなる愉しみ方もあるに違いない。

 オリジナリティあふれるアイテムをどう使いこなすかは、己の器量をはかる物差しでもある。血を湧き立たせる気合が足りないのなら、もうひと振りすればいい。

文/三上真治 text/MIKAMI Shinji
写真・御園木英賢 photos/MISONOGI Eiken

EDGE Book Sensor~ バラ色の未来を体感できる3冊

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驚愕すべきトップランナーたちの道程

こうして特許製品は誕生した! 史上最強のロボット リンゴが教えてくれたこと
国内では46年ぶりとなる皆既日食を来月に控え、宇宙を切り口としたイベントが各地で行われている。未知なる世界への憧れは好奇心を刺激し、男のロマンをかきたてる。そこで、今回はバラ色の未来を体感できる3冊を紹介したい。

人間の欲望と必然が、さまざまな発明を生む。そう実感させてくれるのは『こうして特許製品は誕生した!』。特許製品の歴史をひもとき、発明のアイデアが生まれ、完成にこぎつけた軌跡をたどる。この本では破天荒な芸術家から天才発明家、愛妻家の研究者まで、さまざまな発明人生を垣間見ることができる。

コーンフレークに砂糖を添加するかどうかで決裂したというケロッグ兄弟、肥満体でもラクに靴をはけるようにと考案された「ジッパー」の誕生秘話など、有名無名の発明家たちのエピソードはどれも、好奇心をそそられる。中でも驚かされるのが、あの「自由の女神」も特許製品だったという話だ。

自由の女神が完成したのは1884年夏。その"肉体"は200以上の木箱に梱包され、アメリカに送られた。考案から約20年。著者は「これほどお金がかかった特許製品もない」という。もっと生活を便利に、もっと人生を楽しくしたい。そんな発明家たちの情熱と発想力を追体験できる一冊だ。

『史上最強のロボット!』。気鋭のロボットクリエイター・高橋智隆と『空想科学読本』の柳田理科男による対談集。サイズや戦闘力、速さ、耐久性、賢さ、かっこよさなど、さまざまな視点から"最強のロボット"を模索する。 アニメや特撮ヒーロー番組などに登場するロボットから、実存するロボット、夢のロボットを実現するためのアイデアまで、縦横無尽に広がっていくロボットトークに引き込まれる。

『リンゴが教えてくれたこと』。農薬なしでは不可能だとされてきた、リンゴ栽培の常識を覆した農業家が語る、"奇跡のリンゴ"が実るまでの軌跡。
10年近く続いた無収穫時代の生活の困窮ぶりは想像を絶する。だが、不思議と悲壮感を感じさせない。することがないから、と日がな1日害虫を観察し続け、無収入時代には「我が家では畑の草を食べていました」とサラリと語る変人ぶりに、ただただ圧倒される一冊でもある。

不可能を可能に変える。それは、生やさしいものではない。だが、日々の情熱の積み重ねの先に、新たな未来が広がっているのだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami
写真・嘉川ニ奈 Photo/KAGAWA Nina

今週のEDGEな3冊

こうして特許製品は誕生した!
『こうして特許製品は誕生した!』
著・ベイ・イケンソン 二見書房/1680円
史上最強のロボット
『史上最強のロボット』
著・高橋智隆×柳田理科雄 メディアファクトリー/945円
リンゴが教えてくれたこと
『リンゴが教えてくれたこと』
著・木村秋則 日本経済新聞出版社/893円

EDGE Wave Sensor~自在に移動

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シーンを考え尽くされた"デザイン"の正体

8-inch LCD TV/±0
専用の無線で映像を飛ばすため、電源さえあればアンテナケーブルが届かずとも映像を愉しむことができる。TFTアクティブマトリクス方式を採用し、高コントラスト・広視野角を実現した。本体背後にステレオスピーカーを搭載。付属のビデオコントローラを接続すれば、他機器のリモコンをテレビに向けるだけで、離れた場所のビデオやDVDプレイーヤーの操作も可能となる。7万8750円
http://www.plusminuszero.jp/
"デザイン家電"という言葉がある。よくよく考えてみると、不思議な言葉である。世に送り出されるすべての製品はデザインされている。例えば車ならインテリアやエクステリアそれぞれを担当するデザイナーがいるのは当然で、それと同様に家電製品にもプロダクトデザイナーがいるはずなのだ。デザインされていて当たり前のものにわざわざ「デザイン」という言葉が付加されている。妙な話だ。

「デザインプロダクト」を発信する『±0(プラスマイナスゼロ)』というブランドは、既存のプロダクトについて当たり前だとされていることを見つめ直している。例えば、リビングダイニングにあるテレビや加湿器などのプロダクトは同じ空間に同居していても、まったく違う方向を向いたデザインということが少なくない。例えば、ひとつは先鋭化させた機能を象徴するためのデザインで、もうひとつは空間にとけ込むためのデザイン。「±0」のプロダクトは、そうしたズレとは無縁のところに位置している。デザインディレクターはプロダクトデザインのトップランナーである深澤直人氏。「モノが本来あるべき必然の姿」を見つけ出し、「ありそうでなかったモノ」を作り出す。

例えば小型の液晶テレビ。世の多くの小型の液晶テレビは、まるでカーナビのような薄型でメカニカルなデザインが施されているものが多い。だが小型の液晶テレビは、どんな場所で使いたくなるものか。例えばデスクの上、例えば寝室のベッドの上、例えばキッチン……。そこでのテレビは主役ではない。あくまでも「ついで」であり「脇役」という位置づけでありながらも、プロダクトがとけ込まなければならない「場面」の種類は雑多である。つまり主張を抑えた、人の心に近いデザインが必要となる。

機能面でも制約は多い。持ち運ぶことを前提とする以上、アンテナケーブルの存在は排除したくなる。だが、本体内蔵のアンテナではクリアな画像を常時愉しむことは難しい。さまざまな場所に置かれることを考えると、通常のテレビスタンドでは対応しきれない。

と少し考えただけでも、小型液晶テレビにはこれだけの課題が与えられる。だが「±0」の『8-inch LCD TV』は、そうした課題がすべて解決されている。本体付属のセットトップボックスをアンテナジャック付近に設置し、室内に無線で映像を飛ばすため室内ではクリアな映像を愉しむことができる。さらにブラウン管のようにも見えるその形状は、ベッドの上のような場所で本体が倒れる心配とも無縁。デスク上、キッチン、寝室にもすんなりとけ込むシンプルなデザインは、まさに「±0」の真骨頂とも言えるデザインだ。

家電がデザインされているのは、当然のこと。実は"デザイン家電"とはデザインされた家電という意味ではない。「ライフスタイルをデザインする家電」を指すのだ。それは言い方を換えれば、人の心に寄り添うプロダクトでもある。

文・高田純造 text/TAKADA Junzo

EDGE Book Sensor~なぜ今、太宰なのか?に触れる3冊

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ファンならずとも、太宰作品を手に取りたくなる3冊

EDGE Book Sensor
今月19日に生誕100年を迎える作家・太宰治。『ヴィヨンの妻』『斜陽』『パンドラの匣(はこ)』の3作品が相次いで映画化されるほか、その作品や生涯がマンガやドラマなどのモチーフとしても取り上げられるなど、脚光を浴びている。今回は「なぜ今、太宰なのか? に触れる3冊」を紹介したい。

繊細で破滅的なイメージとはまた違う、太宰治に出会えるのが『太宰と安吾』。太宰と親交が深かった作家・壇一雄が、その思い出をつづったエッセー集だ。
家庭を顧みず、酒をあおり、小説を書くという"無頼派"たちの生活ぶり。
暮らしそのものは行き詰まっていたはずなのに、そこには不思議な明るさがあるのだ。

この本には、壇が太宰に"ツケ"とともに、旅館に置き去りにされた「熱海事件」が登場する。太宰の代表作『走れメロス』の主人公は、友人の命を救うために戻ってきたが、太宰は戻ってこなかった。そしてあまりの仕打ちに激怒する壇に、「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね」と弱々しく反撃したという。

壇曰く「私の好きな太宰は、大はしゃぎで、茶目で、絶えず軽口を撒き散らす、太宰の屈託のない時間である」という。この本を読むと、繊細でロマンチックで、屈託の権化のようなイメージとはまた違う太宰の素顔が見えてくる。

『太宰治の四字熟語辞典』。作品内に登場する「自縄自縛」や「功言令色」、「前後不覚」、「天衣無縫」などの四字熟語から、太宰作品を読み解く。著者によれば、最近頻繁に使われているのは「一生懸命」。次いで「四方八方」、「自己弁解」、「自己嫌悪」と続くという。四字熟語の意味や背景はもちろん、登場する作品も解説されている。太宰作品が持つ独特の世界の水先案内人になってくれそうだ。

『ピカレスク』。副都知事に就任し、話題になった作家・猪瀬直樹による太宰治伝。遺書に書かれていた「井伏(鱒二)さんは悪人です」という一文に着目し、膨大な資料をもとに、井伏・太宰の師弟関係を洞察する。"悪漢"であり、「生きようとする太宰治」という、従来のイメージとはまったく違う太宰に出会える一冊でもある。

"話題"に飛びつくのは気恥かしさを伴う。しかし、そんな軽はずみな行動が新たな世界を広げてくれるのだ。

文・島影真奈美 text/SHIMAKAGE Manami
写真・嘉川ニ奈 Photo/KAGAWA Nina

今週のEDGEな3冊

太宰と安吾
『太宰と安吾』
著・檀一雄 バジリコ/1890円
太宰治の四字熟語辞典
『太宰治の四字熟語辞典』
著・円満字二郎 三省堂/1365円
ピカレスク-太宰治伝
『ピカレスク-太宰治伝』
著・猪瀬直樹 文春文庫/780円

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