エクストリーム
『サウダージ・デ・ロック』
いちばん好きなアルバムって何なんですか? それから、いちばん良かったライヴは?僕がいちばん苦手なのがこの種の質問だ。なにしろライヴは毎年平均120本くらい観ているし、聴いてきたアルバムの数なんて考えたこともない。ま、本当はちゃんと答えがあろうと場面とタイミングによっては素直にそれを提示しにくいというのもあるのだが。
ただ、過去最高のライヴについては自分のなかでオールマイティーな回答が用意されている。1992年4月にロンドンのウェンブリー・スタジアムで観たフレディ・マーキュリーの追悼コンサートだ。
そう答えると大概の場合は「それは反則だろ?」と突っ込まれることになるのだが、とにかく僕自身、ライヴというものにあそこまで泣かされたことはそれ以前にも以降にも皆無だ。悲しいのではなく本気で感動してしまったのだ。
エルトン・ジョンやライザ・ミネリからデヴィッド・ボウイ、ガンズ・アンド・ローゼズ、メタリカに至るまで。その日、ステージに登場した豪華絢爛なアーティストたちのなかでも、ことに印象的だったのが、完璧すぎる歌を聴かせてくれたジョージ・マイケルと、かのブライアン・メイに「クイーンが何たるかをいちばんよく理解しているバンド」と紹介されたエクストリームだった。
エクストリームは天才肌の凄腕ギタリスト、ヌーノ・ベッテンコートを擁するボストン出身の4人組で、80年代末から90年代前半にかけて一世を風靡。最大の看板曲は全米No.1になったアコースティックなバラード、「モア・ザン・ワーズ」だが、そもそもはファンク・メタルを音楽的キーワードにしていたバンドでもあるし、僕自身が当時抱いていた印象は「エアロスミスとクイーンとヴァン・ヘイレンの美味しいところをすべて掛け合わせたようなバンド」というもの。エアロスミスとは同郷で、クイーンのメンバーには後継者のように認められたこのバンドが、かつて結果的に解散に至った理由がフロントマンであるゲイリー・シェローンのヴァン・ヘイレン加入だったという事実は、なんだか皮肉な気もする。
そのエクストリームが、なんと復活を遂げ、実に13年ぶりとなる新作を完成させた。題して『サウダージ・デ・ロック』。ヌーノの母国であるポルトガルの言葉で「ロックの不在が果てしなく悲しい」という意味が込められているのだという。裏を返せば「ロック然としたロックの復興を切望する」ということでもあるのだろう。
そして実際、ほぼスタジオ・ライヴに近い状態で録られたというこの『サウダージ・デ・ロック』は実に生々しい躍動感に溢れている。大胆にして繊細、過度なほどに多面的でありながら散漫な印象のない作品像は、やはりどこか往年のクイーンを彷彿させもするし、ビートルズやレッド・ツェッペリンの亡霊もところどころに見え隠れする。ストレートに言えば、彼らの好きなもの、影響を受けてきたものがすべてここに注入されている。が、ロックをこんなバランス感覚で構築できるバンドはエクストリーム以外には存在しない。そう言い切れるだけの熟成された説得力を僕は感じずにいられない。
単純に時代的な理由から、80年代メタルの枠組みのなかで語られることが多いエクストリーム。彼らが「すべてを呑み込んだロック・バンド」として本当に正当な評価を受けるのは、もしかしたら、これからなのかもしれない。少なくとも2008年夏現在、僕の“今、いちばん好きなアルバム”は『サウダージ・デ・ロック』である。
1985年結成。1989年のデビュー以来、CDの総セールスは全世界で1000万枚を超える。
現在の布陣はヌーノとゲイリーに加え、やはりオリジナル・メンバーであるパット・バジャー(b)と、新規加入のケヴィン・フィグェリド(ds)。
今作を携えての来日公演も12月に予定されている。


