頑健な純正が好きだったんです
「あの当時人気があったのは、1303だったんですよ。でも僕はどうしても1300が良かったんです。エンジンに多少のパワーの違いはあったけど、4気筒水平対向エンジンというのは同じ。全長も1303の方が50mmほど大きい程度でした」
実際、町田さんが所蔵する当時のカタログを見ても、全9種のバージョンのうち1303は7種を占めていて、セダン、コンバーチブル、サンルーフという3つのタイプがすべてMT/ATから選べるようになっている。対して1300はわずかマニュアルの1バージョンのみ。メーカーの力の入れ方が明らかに異なる。なぜそうまでして町田さんは1300にこだわったのだろうか。
「決定的だったのはダッシュボードの質感でした。ずっとワーゲンのダッシュボードは、1300のような鉄板製という印象が強かったんです。頑健なイメージを持っていたんでしょうね。1303はダッシュボードが樹脂製で曲線となっているし、ボディの形状もそれまでのワーゲンと比較すると違っている。1300こそ、純血のワーゲンである。当時はそんな風に感じていたんです」
「神はディテールに宿る」という言葉がある。本来は「ディテールにこそ、ものの価値が表現されている」というような意味の言葉だ。そしてそれは、ほんの些細な細部の違いが、全体の印象を劇的に変えてしまうという事実も指し示している。町田さんにとって、ディテールに宿る神とはダッシュボードだった。時代や街の文化を、どこにでもあるパッケージなどを収集し、ひもといていく。その特異なる感性は22歳にして、町田さんの中に芽吹いていたのだ。






