憧れのポルシェを手に入れた日
「つらいとき、苦しいとき、支えになったのがポルシェのミニカーでした。そしてようやく22歳のとき、バイトで貯めたお金で免許を取ることができたんです」
喜び勇んで友人から譲り受けた、コラムシフトのマツダ・ルーチェが最初の1台。その後、日産の“ケンメリ”スカイライン、三菱のミラージュと乗り継いだ。
「次に、フォルクスワーゲン・シロッコを手に入れました。赤に近いようなオレンジ色で左ハンドルだったから、自分では『あのポルシェに少し近づいたかしら』なんて悦に入ってましたが、半年でガソリンタンクに亀裂が入って、セリカXXに乗り換えた。これもやっぱり赤と黒のツートンカラーの1台でしたね」
“赤”のスポーツカーを乗り継ぎ、ようやくポルシェにたどり着いたのは29歳のとき。六本木のショールームでの出会いからちょうど10年。手に入れたのはポルシェ911SCだった。もちろん色は“赤”。
「中古だったけれど、『やっとたどり着いた』って、もう本当にうれしくて毎日乗り回していました。でも、記憶に焼きついている“赤いカブリオレ”の新車がどうしてもほしくなって、ほどなく買い替えてしまったんです(笑)」
憧れの「赤」の「ポルシェ」「カブリオレ」を手に入れた夏樹さんは、オープンカーの魅力に心奪われ、寒さにふるえながら早朝の青山通りを疾走した。
「当時のポルシェのオープンって風の巻き込みがすごかったから、髪はもうソフトクリームみたいでしたけど(笑)」
ポルシェに憧れた20代の頃
「私、三重県出身なんです」
三重県といえば、車好きにとっては聖地のような存在だ。そう。ご存じの通り、今年3年ぶりにF1グランプリが帰ってくる鈴鹿サーキットは三重県に位置している。
「初めてエンジンのある車を動かしたのは、小学校低学年のとき。当時、鈴鹿にあったゴーカートに初めて乗って、もうやみつきに。もともとブランコのように、肌で風を切る感覚のある遊具や遊びは好きでしたけど、ゴーカートはケタ違いに楽しかったですね」
そんな夏樹さんが「自分の車を買うんだ」と決意したのは19歳の頃だった。
「東京でモデルを始めたばかりの頃なんて、お金もないから移動はもちろん電車。でも先輩のモデルさんは、颯爽と車でスタジオに乗りつける。先輩のそんな姿に漠然とは憧れていましたが、当時は自分で手に入れるということが現実的には考えにくかった。ところが、ある日六本木のスタジオでの撮影に向かう途中、飯倉片町あるMIZWAのショールームで真っ赤なポルシェを見かけたんです。六本木という華やかな街のウインドウにライトアップされた赤い輸入車。その日から私の目標は『絶対に、あの赤い車を買う』になったんです。まだ免許も持っていなかったのに(笑)」
当時、「駆け出しのモデルだった」夏樹さんは、それ以来、毎日のようにMIZWAのショールームの前を通りがかっては、「あの車を買うんだ」との思いを噛みしめた。2500円で小さなポルシェのミニカーを買い、カバンにお守りのようにそっと忍ばせた。
「まだそのミニチュアは大切にとってあります。当時はすごく遠い憧れだったけど、『絶対に手に入れる』と決めていたから、かえって励みにもなりました。憧れや夢って、手近なものではないからこそ面白いし、がんばることができる。そんな気がするんです」
見惚れるほどに美しい
「実はフェラーリに乗るようになったきっかけも、レースだったんです。漫画『サーキットの狼』の作者、池沢早人師さんとトーク番組でご一緒したときに、熱烈にフェラーリの素晴らしさを教えていただいて(笑)。実際にサーキットでF40に乗せていただいたら、まったく新しい車の世界に出会うことに。車高が低いから、スピード感とスリルもある。おまけにエンジン音もすごい。でも何より驚いたのは、その安定感。フェラーリから走りの新しい楽しさを教えてもらったおかげで、その後、レースにも出るようになってしまったんです(笑)」
1991年に手に入れたフェラーリ348TSも、現在のF355ベルリネッタもデザインを手がけたのはピニンファリーナ。348のセミモノコックフレーム構造を受け継いだ、その麗しいフォルムは、夏樹さん自身の美貌やコーナリングの軌跡の美しさと響き合うように、「美しさ」の新しい次元を見せてくれる。
恋人はフェラーリ・F355ベルリネッタ
夏樹さんが、フェラーリのハンドルを握ってから十数年が経つが、そこにある愛着はずっと変わらないという。初めてのフェラーリは1991年に手に入れた赤の348TS。約6年間で8万kmまで乗った後に、現在のF355ベルリネッタに乗り替えた。
「前の348もいまのベルリネッタもそうですが、手に入れた車を飾っておくようなことは一切しません。車は、エンジンに火を入れて、アクセルを踏み込むために生まれてきた工業製品。永遠に乗り続けることができるわけじゃないから、その生命がある間は、しっかりと乗ってあげなきゃいけない……というのは、ハンドルを握るための言い訳かな(笑)。でも、しっかり運転してあげてこそ、車の命は光り輝くと思っているのは本当なんですよ」
愛車のF355ベルリネッタを見る夏樹さんのまなざしは、キラキラと輝いている。それは憧れの君を見る少女のようであり、愛しい恋人を目の前にした乙女のようでもある。実は今回の取材にあたって、夏樹さんからひとつだけリクエストがあった。それは「気持ちよく走れるところに行きたい!」というもの。そして夏樹さんがハンドルを向けた先は「走り尽くしているけど、やっぱり気持ちいい」という箱根だった。





